下山 進
角川文庫
ずいぶん以前、医薬品業界を担当した。
自分にとっては仕事に微かな誇りを持てた数少ない時期だった。
医薬品、店頭販売するものではなく、医師が扱い、患者に処方する医療用医薬品。
人の命に関わり、その助けになるのか。
社会に対する貢献と言っては大げさだが、自分の仕事に初めて価値、意味を感じた。
アルツハイマー病には以前から興味があった。アリセプトの存在を知った時に驚嘆したのを思い出す。
父方、母方共に長命の家系で100歳あたりまでは生きる。帰郷の度に認知機能が衰え行く祖父母と会うのは胸が痛んだ。認知症に効く薬品が有ればと切に思った。
この本はアルツハイマー病克服を目指す薬品開発のドキュメンタリー。
患者、家族、病、医師、研究者、製薬会社の物語だ。
いつか人間の生命、身体、精神、心の秘密が全て明らかにされ、病も克服される時が来るだろう。
その時、自身がアルツハイマー病に罹患したと知っても治療服薬を断り、その病のままに生き死ぬことを選ぶような人もいるだろうか。